税情報と議員の同行

つい先日も、赤い旗でお馴染みの政党のお偉いセンセイが、滞の…支援者を伴って収納担当課にやってきたらしい。

かの政党のセンセイ方は、かつてはかなり際どい発言をしていたと記憶しているが、最近は随分と大人しくなったように感じる。色々と考えてはいるのだろう。

些か旧聞に属するが、三重県名張市の木平秀樹議員(日本維新の会所属)に対する辞職勧告決議案が同市議会において可決された。

木平議員に辞職勧告決議 辞職は否定 名張市議会 | 【伊賀タウン情報 YOU】

平氏は、固定資産税に関する質問のため、住民と一緒に市の担当課に出向き、2時間以上にわたって座り続け、他の業務ができないようにした、と報じられている。「個人情報で回答できない」という担当職員の説明にも納得せず、「バカにしているのか?」という内容の発言(口調がどうであれ、明らかな恫喝だと思うのだが)をした挙句、辞職勧告にも従わない、という大変強い信念の持ち主であらせられるようだ。

さてこの件、担当職員は「個人情報」と説明したとのことだが、個人情報保護法上、行政機関が保有する個人情報ファイルは「個人情報ファイル簿」により公表することとされており(75条)、固定資産課税台帳等もこの個人情報ファイル簿に登載されている。加えて、税務職員には、公務員に課されている守秘義務地公法36条)に加え、地方税法による守秘義務(地税法22条)が課されている。

固定資産課税台帳には、不動産登記により公示されている事項も登載されているが、少なくとも課税標準額等は「個人情報」であり「秘密」でもあると考えられる。当然、第三者(である議員氏)に対して開示することは許されない。

「本人が承諾してるんだから問題ないだろう!」という主張はあったのかもしれないが、秘密の漏洩に関しては、本人の同意があることをもって違法性が阻却されるという規定も置かれていないので、同意の有無にかかわらず第三者に情報を漏らすことは許されないと解するべきだろう。
では、 議員を代理人として指定した場合はどうだろうか。

税理士法第52条

税理士または税理士法人でない者は、 この法律に別段の定めがある場合を除くほか、税理士業務を行ってはならない。

ここでいう「税理士業務」には、 「税務官公署の調査若しくは処分に関し税務官公署に対してする主張若しくは陳述につき、代理し、又は代行すること」が含まれているので(税理士法②)、「課税誤りを指摘」することを目的として代理人になったのだとすれば、(木平秀樹議員が税理士でない限り)税理士法に違反する可能性がある。

以上のとおり、税理士でない者(議員を含む)を伴って税担当課の窓口でに赴き、主張や陳述をしようとすることは、守秘義務の観点からも税務代理の観点からも問題があるといえるだろう。況んや、守秘義務を守ろうとする職員を恫喝するなど言語道断である。

 

略式代執行の是非

福山市の略式代執行のニュースに、なんとなくモヤモヤしている。

福山市、空き家を略式代執行で解体 116万円を所有者に請求へ(中国新聞デジタル) - Yahoo!ニュース

略式代執行は「空家等対策の推進に関する法律」に基づいて執行される。

空家等対策の推進に関する法律第22条第10項

第三項の規定により必要な措置を命じようとする場合において、過失がなくてその措置を命ぜられるべき者・・・を確知することができないとき・・・は、市町村長は、当該命令対象者の負担において、その措置を自ら行い、又はその命じた者若しくは委任した者にその措置を行わせることができる。

「措置を命ぜられるべき者を確知できない」ことが要件なので、相続人全員が相続放棄の申述をしたケースなどが典型例だろうか。
福山市の事例は、「相続人の一人が確知できない」とされているが、これは文字どおり読めば「他の相続人は確知している」ということになるだろう。ならば、確知している相続人に対しては、行政代執行法による手続きを進めるべきではなかったか。

空家特措法の規定も、除却等の義務を代執行する場合は行政代執行法によることを原則としている。

空家等対策の推進に関する法律第22条第10項

市町村長は、第三項の規定により必要な措置を命じた場合において、その措置を命ぜられた者がその措置を履行しないとき、履行しても十分でないとき又は履行しても同項の期限までに完了する見込みがないときは、行政代執行法(昭和二十三年法律第四十三号)の定めるところに従い、自ら義務者のなすべき行為をし、又は第三者をしてこれをさせることができる。

建物除却等の義務は性質以上不可分債務と解されるので、各共有者が全部の履行について義務を負うことになる(民430)。連帯債務の独立性に鑑みれば、各相続人に対し、別の規定に基づいた代執行を行うことは何ら問題ないものと考えられる。

確かに手続きは面倒だが、行政代執行に要した費用は国税滞納処分の例により徴収することができるとされている(行政代執行法第6条)。費用の回収まで考えるなら、強制徴収公債権として扱える方が効率的だろうし、債権者の責務とも言えるのではないだろうか。

明渡義務の代執行

収用裁決と行政代執行ってセットで語られることが多いと思うけど、実施主体も根拠法令も異なる別モノ。

熊本県では「人が住む家では初」の行政代執行が行われたようだけど、人が住んでいるか否かで法的な構成は変わってくる。ような気がする。

【行政代執行】明け渡しに応じなかった住宅の解体完了 人が住む家では熊本県内初(KKT熊本県民テレビ) - Yahoo!ニュース

 

行政代執行法第2条第1項に規定されているとおり、行政代執行の要件は

①代替的作為義務を義務者が履行しないこと
②他の手段によってその履行を確保することが困難であること
③不履行を放置することが著しく公益に反すると認められること
とされている。これに対して、土地収用法における行政代執行の規定は以下のとおり。

土地収用法第102条の2
前条の場合において、土地若しくは物件を引き渡し、又は物件を移転すべき者がその義務を履行しないとき、履行しても充分でないとき、又は履行しても明渡しの期限までに完了する見込みがないときは、都道府県知事は、起業者の請求により、行政代執行法(昭和二十三年法律第四十三号)の定めるところに従い、自ら義務者のなすべき行為をし、又は第三者をしてこれをさせることができる。

条文上、行政代執行の対象とされている義務は「土地若しくは物件を引き渡」す義務であるが、一般に、「占有を解いて土地、物件を引き渡すこと」は「非代替的作為義務」つまり義務者に代わって履行することができない義務の典型例とされている。単純に考えるなら、土地・物件の引渡し義務は、本来(行政代執行法上の)代執行の対象とはなり得ないはず。

 

この点については、大阪地裁平成21年3月25日判決(除却命令の代執行について、占有の移転を強制するため行政代執行法に違反している、と主張されたケース)が、以下のとおり判示している。

本件除却命令は、あくまでも工作物その他の物件又は施設としての本件テント等の除却義務をその原告らに課すものにすぎず、本件テント等の除却によって本件テント等の設置場所ないしその周辺場所に対する原告らの事実上の排他的支配状態が失われることとなるとしても、それは、本件テント等の除却によって生じる事実上の効果にすぎないのであって、これをもって本件テント等の除却命令の法的効果の実現であるということはできない。

つまり、代替的作為義務である「建物等の除却」を代執行した結果、占有者が占有を放棄して事実上引渡しの効果が発現しただけであって、非代替的作為義務である「土地の明け渡し」について代執行したものではないよ、という理屈。

んー、やや牽強付会な印象かな。

 

 

固定資産税の還付

北上市で、固定資産税評価額を「独自ルール」に基づいて算定したことにより、総額8億円(平成6年度から令和3年度)を還付するとのこと。発覚当時の資料(広報で周知したらしい)がHPに掲載されている。
https://www.city.kitakami.iwate.jp/material/files/group/8/20211026_kitakami.pdf

本来であれば、再建築費評点数によって区分ごとに定められている経年原点補正率について、一律適用していたことが原因である、らしい。
経年原点補正率については、固定資産評価基準において

木造家屋の構造区分及びその延べ床面積1.0㎡当たり再建築費評点数の区分に従い、「木造家屋経年減点補正率基準表」(別表第9)に示されている当該木造家屋の経年減点補正率によつて求めるものとする。

とされているので、これに反しているのは明らかだ。

気になるのはやはり還付の対象期間だろう。

地方税法第17条の5第4項
地方税課税標準又は税額を減少させる賦課決定は、前項の規定にかかわらず、法定納期限の翌日から起算して五年を経過する日まですることができる。

この5年は除斥期間とされているので、期間は更新されないし、時効利益を放棄することもできない。課税が無効と解するにしても、還付請求権は時効消滅している(地税18の3)ので、5年を超える分については還付の法的根拠がないのではないか。

北上市は「市税等過誤納金補填金要綱」を定めているものの、地方税法が定める消滅時効、期間制限を無視してよいことにはならない。また、「補填金要綱」という名称から国家賠償法に依拠しているものと推察されるが、国家賠償法に基づく賠償責任の除斥期間は20年であるところ、本件は20年を超える分についても還付の対象としている。

国家賠償法4条
国又は公共団体の損害賠償の責任については、前3条の規定によるの外、民法の規定による。

民法(改正前)724条
不法行為による損害賠償の請求権は、被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から3年間行使しないときは、時効によって消滅する。不法行為の時から20年を経過したときも、同様とする。

この点につき、最判令和2年3月24日は

税額が過大であることによる国家賠償責任が問われる場合において、これに係る違法行為及び損害は、所有者に具体的な納税義務を生じさせる賦課決定等を単位として、すなわち年度ごとにみるべきであり、家屋の評価に関する同一の誤りを原因として複数年度の固定資産税等が過大に課された場合であっても、これに係る損害賠償請求権は、年度ごとに発生するというべきである。

とし、さらに、

ある年度の固定資産税等の過納金に係る損害賠償請求権との関係では、被害者である所有者に対して当該年度の具体的な納税義務を生じさせる賦課決定の効力が及んだ時点、具体的には納税通知書の交付がされた時点をもって、除斥期間の起算点である「不法行為の時」とみることが相当である。

と判示しているので、納税通知書の交付時から20年以上経過している年度については、国家賠償法の適用も受けないものと解される。

無体財産権の差押え

無体財産権というのは、要すれば物権でも債権でもない権利、ということになるのだろう。典型的なのは著作権特許権実用新案権などだろうが、滞納処分の対象となる無体財産権となると、初任者にはイメージがが難しいようだ(著作権特許権も譲渡が可能なので差押対象財産としての要件は充足するが、事例が少ないし公売に当たっての法的制限もあるので敬遠されるのだろう)。

かつては電話加入権に一定の財産的価値があったので、これを差し押さえ、公売に付していた時期があった(担保権を設定して融資を行う業者も存在した)。しかし、携帯電話・IP電話の普及に伴って固定電話の加入権は担保価値を喪失し、現在では差押対象財産として認識されることはほとんどないと言ってよい。

実務上、差押えの対象となる無体財産権の代表的なものは、信用組合農業協同組合等の持分(出資)だろう。
中小企業協同組合法では、組合員は出資一口以上を有しなければならないと規定されており(第8条)、持分の取得によって組合員としての地位や議決権・選挙権等を得ることになる。また、持分の譲渡にあたっては組合の承諾が必要とされており(第17条)、これらの点において持分は、国税徴収法上の債権には該当しない(だから無体財産権として差し押さえる)。

一方で、組合員は自由脱退を認められており、脱退によって持分の払戻請求権(こちらは債権)を取得することとなる(第20条)ので、換価の手続は債権の取立に準じることとなる。これらの権利は国税徴収法上「第三債務者のある無体財産権」として取り扱われ、差押手続も債権と同様、差押通知書の送達によるとされている。

国税徴収法第73条第1項
無体財産権等のうち電話加入権、合名会社の社員の持分その他第三債務者等がある財産・・・の差押えは、第三債務者等に対する差押通知書の送達により行う。

構成としては、当初から持分の払戻請求権を差し押さえたうえで、滞納者に代位して脱退の意思表示を行い、取立権を行使する方が分かりやすいような気がする(生命保険の解約返戻金と同様だし)し、租税徴収制度調査会の答申においても同様の記述がある。

昭和33年12月8日 租税徴収制度調査会答申
自由脱退が認められる組合等の構成員の持分の差押えについては、商法に規定する合名会社及び合資会社の持分差押えに伴う退社請求制度の趣旨に則り、差押債権者は、滞納処分によると強制執行によるとを問わず、他に差し押さえるべき財産がなく、かつ、その持分を公売により換価することができない場合に限り、構成員である滞納者に代って脱退の意思表示を行い、これによって生じた持分払戻請求権を差し押さえることができることとすべきである。

答申はさらに、「将来はこの方向によることとし、各根拠法を改正することが適当である」としているが、現状でも租税行政庁が払戻しの請求を行う旨規定している点をみると、改正は永遠にされないのではないかと思う。

国税徴収法第74条第1項
税務署長は、中小企業等協同組合法に基づく企業組合、信用金庫その他の法人で組合員、会員その他の持分を有する構成員が任意に・・・脱退することができるもの・・・の組合員、会員その他の構成員である滞納者の持分を差し押さえた場合において、当該持分につき次に掲げる理由があり、かつ、その持分以外の財産につき滞納処分を執行してもなお徴収すべき国税に不足すると認められるときは、その組合等に対し、その持分の一部の払戻し・・・を請求することができる。

怠る事実と欠損処理【奈良県香芝市】

奈良県香芝市で発生した、「不納欠損処理の遅延問題」が、なかなか香ばしい展開を見せている。

https://www.city.kashiba.lg.jp/uploaded/attachment/17869.pdf%20%20

当初は、「令和4年度の固定資産税延滞金のうち、1件730,620円について、時効到来に伴う不納欠損処理ができていないことが判明しました」という内容だった。
この点については、香芝市会計規則の規定に反していることは明らかだし、すでに決算認定を終えている令和4年度決算書も瑕疵を帯びていることになる。

香芝市会計規則第27条第1項

課長は、歳入の未納金で欠損処分に付すべきものがあるときは、不納欠損書を作成し、市長の決裁を受けなければならない。

自治体の債権を管理する上で、時効管理は極めて重要なものの一つと言えるだろう。
通常は、滞納者について徹底した財産調査を行い、その結果、無財産・生活困窮等の実態が判明すれば、速やかに滞納処分の執行を停止する意思決定をし、処分の停止から3年経過で納税義務は消滅することとなる。


この際、会計上は調定額として残った形になっているので、不納欠損処理をすることで収入予定額から除外する手続が必要となる。

上記の報道資料では、不納欠損の処理ができいなかった、との記述があるが、どうやらそれだけではないらしい。

香芝市議会のホームページに、10月5日付で「質問状に対する回答について」という文書が公開されているが、それによれば、上記を含む2件の延滞金債権について、一切の滞納処分も執行停止も行わっていない、とのこと。すなわち、滞納処分を行わないまま、単純な時効により債権を消滅させたことになる。

既往の裁判例(平成12年4月24日浦和地裁判決)では、

平成12年4月24日浦和地裁(判決要旨)

市の納税課職員が市民税の徴収権を時効消滅させて市民税の徴収を違法に怠ったことについて同職員の財務会計上の違法行為を阻止すべき指揮監督上の義務を怠っていた

との判断が示され、地方自治法242条の2第1項4号に基づき市長個人に対してされた損害賠償請求が認容されている。

水道料金返還の消滅時効【宮崎県延岡市】

水道使用料は私債権として扱われる。

平成15年10月10日 最高裁判所決定

水道供給事業者としての被控訴人の地位は、一般私企業のそれと特に異なるものではないから、控訴人と被控訴人の間の水道供給契約は私法上の契約であり、したがって、被控訴人が有する水道料金債権は私法上の金銭債権であると解される。

となれば、過大に徴収した場合の返還義務については、[国家賠償法による損害賠償責任]若しくは[民法による不当利得返還義務]のいずれかによるものと考えられる。

国家賠償法による場合、民法の規定が準用されるので(国賠3)、

民法第724条

不法行為による損害賠償の請求権は、被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から三年間行使しないときは、時効によって消滅する。 不法行為の時から二十年を経過したときも、同様とする。

知った時から3年若しくは不法行為から20年で請求権は時効により消滅する。

一方、民法による場合は、旧民法167条1項により、権利を行使することができる時から10年(令和2年4月の改正以降は、「権利を行使することができることを知った時から5年」若しくは「権利を行使できる時から10年」)で時効により消滅することとなる(この場合時効の援用をする必要がある)。

メーター誤設置で24年にわたり水道代を過大請求 住民も気づかず:朝日新聞デジタル

こちらの記事では、「取りすぎていた水道代の還付は、時効にかかっていない2年分とする案もあった」とのことだが、2年とはどういう根拠なのか。

上掲の最高裁決定では

水道供給契約によって供給される水は、民法173条1号所定の「生産者,卸売商人及び小売商人が売却したる産物及び商品」に含まれるものというべきであるから、結局本件水道料金債権についての消滅時効期間は、民法173条所定の2年間とすべきこととなる。

としているけど、これは水道料金を徴収するときの話。まさか混同してるはずはないよな…。